コンテンツにスキップ

RABET ユーザーガイド

このガイドは RABET 1.4.2 向けです。動画を見ながら動物行動を記録し、 複数ファイルの集計、可視化、評価者間・評価者内信頼性の確認、バウト解析、 遷移解析まで行うための基本的な使い方をまとめています。

英語版は USER_GUIDE.md にあります。


目次

  1. はじめに
  2. 動画にアノテーションを付ける
  3. アノテーションファイルを解析する
  4. バウト解析
  5. 遷移解析
  6. 可視化
  7. 信頼性評価
  8. プロジェクトモード
  9. 設定とファイル
  10. トラブルシューティング
  11. 引用とサポート

1. はじめに

1.1 RABET を入手する

最新版のバイナリは GitHub Releases で公開しています。Zenodo の DOI は、引用と長期アーカイブのために用意して います: 10.5281/zenodo.15313025

OS ファイル
Windows インストーラー RABET-Windows-1.4.2-Setup.zip
Windows ポータブル版 RABET-Windows-1.4.2-portable.zip
macOS Apple Silicon RABET-macOS-arm64-1.4.2.dmg
macOS Intel RABET-macOS-x86_64-1.4.2.dmg
Linux RABET-Linux-x86_64-1.4.2.AppImage

配布版には必要な実行環境が同梱されています。通常の利用では、VLC、FFmpeg、 Python、R、scipy、コーデックパックなどを別途インストールする必要はありません。

1.2 起動方法

Windows インストーラー

  1. RABET-Windows-1.4.2-Setup.zip を展開。
  2. RABET-Setup.exe を実行。
  3. スタートメニューまたはショートカットから RABET を起動。

Windows ポータブル版

  1. RABET-Windows-1.4.2-portable.zip を展開します。
  2. 展開先のフォルダを開きます。
  3. RABET.exe を実行します。

初回起動時に Windows SmartScreen が警告を出すことがあります。これは コード署名されていないアプリでよく起こる表示です。入手元を確認したうえで、 詳細情報 から 実行 を選んでください。

macOS

  1. CPU に合う DMG を開きます。
  2. RABET.app を Applications フォルダへドラッグします。
  3. 「破損している」「検証できない」と表示される場合は、ターミナルで一度だけ 次を実行します。
xattr -dr com.apple.quarantine /Applications/RABET.app

その後は通常どおり RABET.app を開けます。

Linux

chmod +x RABET-Linux-x86_64-1.4.2.AppImage
./RABET-Linux-x86_64-1.4.2.AppImage

1.3 初回起動時に作られるもの

RABET は初回起動時に、ユーザー設定用のフォルダを作成します。

OS 場所
Windows %APPDATA%\RABET\
macOS ~/Library/Application Support/RABET/
Linux ~/.config/RABET/

主な中身は次のとおりです。

  • configs/: アクションマップ、解析メトリクス、色設定
  • logs/: トラブルシューティング用の実行ログ
  • projects/: プロジェクトの既定保存先

ファイル選択ダイアログで最後に開いたフォルダも記憶されます。

1.4 画面構成

RABET の主要な作業画面は 5 つのタブに分かれています。

タブ 用途
Annotation 動画を開き、行動イベントを記録する
Analysis 複数 CSV の集計、バウト解析、遷移解析を行う
Visualization 複数個体・複数ファイルのラスタープロットを描く
Reliability 評価者間・評価者内の一致度を確認する
Project 動画、アノテーション、解析結果をまとめて管理する

起動を速くするため、一部の重いタブは初めて開いたときに構築されます。最初の クリック時だけ短い読み込み表示が出ることがあります。


2. 動画にアノテーションを付ける

2.1 動画を開く

動画は次のいずれかで開けます。

  1. File > Open Video
  2. File > Open Recent Video
  3. RABET のウィンドウへ動画ファイルをドラッグ&ドロップ

.mp4.mov.avi.mkv.webm.m4v.wmv.flv.ts などの一般的な動画形式に対応しています。拡張子が特殊な場合でも、ファイル シグネチャの確認と PyAV による試験的なオープンを行うため、中身が通常の動画 であれば開けることがあります。

2.2 アクションマップ

アクションマップは、キーボードの 1 つのキーを 1 つの行動ラベルに対応させる 設定です。RABET 1.4.0 では、各行動に Type を設定できます。

Type 意味 記録のされ方
State 開始時点と終了時点を持つ区間として記録 キーを押すと開始、離すと終了
Point 持続時間のない単一の時点として記録 キーを 1 回押して記録

開始時点と終了時点を記録する場合は State、単一の時点として記録する場合は Point を選びます。この選択は行動の速さではなく、必要なデータ表現に基づきます。

アクションマップの操作:

  • Add: 新しいキーと行動を追加し、State / Point を選ぶ
  • Edit: 選択した行動名または Type を変更する
  • Remove: マッピングを削除する。記録済みイベントは削除されません

古い形式のアクションマップもそのまま使えます。単に "key": "Behaviour" と書かれている項目は State として扱われます。Point 行動だけは JSON 内に 明示的な kind が保存されます。

現在どのアクションマップを使っているか

マッピング表の上の見出しに、いま編集・記録に使っているマップが表示されます。

見出し 意味
Action Map プロジェクトを開いていない。グローバルのマップを使用中
Action Map — <プロジェクト名> 開いているプロジェクト専用のマップを使用中。編集内容はプロジェクトに保存され、グローバルのマップは変更されない
Action Map — global プロジェクトを開いているが専用マップを持たないため、グローバルのマップを使用中。ここでの編集はグローバルのマップを書き換える

プロジェクトに専用マップを持たせる方法は プロジェクトのアクションマップ を参照してください。

記録済みのプロジェクトでマップを変更する場合

開いているプロジェクトに既にアノテーション済みの動画がある状態で、キーの意味を 変える操作(行動名の変更、State と Point の切り替え、マッピングの削除、Load や Reset によるマップ全体の置き換え)を行うと、確認ダイアログが表示されます。 新しいキーの追加は既存データに影響しないため、確認は表示されません。

保存済みのアノテーション CSV が書き換えられることはありません。確認の目的は 整合性の注意喚起で、変更後に記録したデータは、それ以前に収集したデータと直接 比較できなくなる可能性があります。意図した変更であればそのまま続行できます。

2.3 動画操作とショートカット

操作 ショートカット
再生 / 一時停止 Space
1 ステップ進む Right Arrow
1 ステップ戻る Left Arrow
直前のアノテーションを取り消す Ctrl + Z
選択中のイベントを削除する Delete または Backspace
ショートカット一覧を開く F1

ステップ幅と再生速度は、動画下のコントロールで変更できます。録画中は、 動画時刻に加えて、記録開始からの相対時刻も表示されます。

2.4 タイムドセッション

Recording controls でテスト時間を設定し、Start Recording を押すと 待機状態になります。任意のキーを押すと、セッションと動画再生が開始されます。 最初のキー入力は開始信号としてのみ使用され、行動に割り当てられたキーであっても アノテーションとして記録されません。

基本的な流れ:

  1. 動画を開く
  2. 00:05:00 などの形式でテスト時間を設定する
  3. Start Recording を押す
  4. Space でセッションと動画再生を開始する
  5. 行動キーを押してスコアリングする
  6. 必要に応じて PauseResumeStop を使う

設定した時間が経過すると、録画は自動で終了し、動画も一時停止します。

2.5 巻き戻し時の挙動

Preserve on rewind がオフの場合、まだキーを押している途中の State イベントについて、再生ヘッドをその開始時刻より前へ戻すと、そのイベントは 破棄されます。早く押しすぎたイベントを取り消したいときに便利です。

オンの場合は、そのような途中イベントも保持されます。Point イベントは押した 瞬間に完了するため、アクティブキー一覧には残りません。

2.6 タイムライン編集

タイムラインでは、State イベントは横長のバー、Point イベントは細い目印として 表示されます。

主な操作:

  • イベントをクリックして選択
  • Delete または Backspace で削除
  • Ctrl + Z で直前の記録を取り消し
  • ズーム操作で密な区間を拡大

2.7 アノテーションの保存と読み込み

File > Export Annotations で、次の 3 セクションを持つ CSV を保存します。

  1. メタデータ
  2. イベントログ
  3. 行動別サマリー

State イベントは通常 Offset > Onset です。Point イベントは Onset == Offset として保存されます。Point の Duration は 0 ですが、 Frequency にはカウントされます。

File > Import Annotations で、保存済みの RABET CSV をタイムラインへ 読み込めます。既にイベントが読み込まれている場合は、置き換える前に確認 ダイアログが表示されます。

自動保存の保存先

タイムドセッションが終了すると、アノテーション CSV が自動保存されます。

プロジェクトモード以外では、元動画と同じフォルダに <動画名>_annotations.csv として保存されます。1 か所にまとめたい場合は File > Set Auto-Save Folder でフォルダを指定すると、以降のプロジェクト外の 記録はそこへ保存されます。File > Reset Auto-Save Folder to Default で、 動画と同じフォルダへ保存する既定の動作に戻ります。設定は次回起動以降も保持 されます。

指定したフォルダへ保存する場合、ファイル名の先頭に元動画のフォルダ名が付きます。 subject1/trial.mp4subject1_trial_annotations.csv となるため、別フォルダに ある同名の動画も区別できます。動画と同じフォルダへ保存する場合は、フォルダ自体が 区別を担うので <動画名>_annotations.csv のままです。

同名のファイルが既に存在する場合は、上書きせずタイムスタンプを付与します。

プロジェクトモードでは保存先はプロジェクトの annotations フォルダに固定され、 この設定の影響を受けません。


3. アノテーションファイルを解析する

Analysis タブでは、複数のアノテーション CSV を集計し、表計算ソフトや統計 ソフトに渡しやすい形にします。

3.1 ファイルを読み込む

Load Files から CSV を選ぶか、CSV をドラッグ&ドロップします。animal_id はファイル名から自動的に作られます。番号を含むファイル名は自然順で並ぶため、 RI_2RI_10 より前に表示されます。

読み込んだファイルは Files タブで確認できます。

3.2 Summary タブ

Summary タブには、1 ファイルにつき 1 行の集計結果が表示されます。末尾に meanSEM の行も追加されます。

列の構成:

  • animal_id
  • 行動ごとの <行動名> (s): Duration
  • 行動ごとの <行動名> (n): Frequency
  • カスタム潜時メトリクス
  • カスタム合計時間メトリクス

Point 行動は通常、Duration ではなく Frequency を見る指標です。

3.3 インターバル解析

Enable interval analysis をオンにし、秒数を指定すると、セッションを 固定長の時間ビンに分けて集計できます。結果は Intervals タブに表示されます。

解釈のポイント:

  • Duration は重なり時間で計算されます。インターバル境界をまたぐ State イベントは、それぞれの区間へ分配されます。
  • Frequency は開始時刻で数えます。イベントがどこで始まったかによって、 1 つのインターバルにだけカウントされます。
  • Point イベントは Duration 0 ですが、Frequency には入ります。

3.4 カスタムメトリクス

Configure Metrics... から、研究に合わせた指標を編集できます。

Latency メトリクス は、記録開始から特定行動の最初の発生までの時間です。 その行動が起こらなかった場合は空欄になります。

Total-time メトリクス は、複数行動の合計時間です。元のイベント時刻が 利用できる場合、RABET は重複区間をまとめてから合計するため、同時に起きた 行動を二重に数えません。

3.5 出力

  • Copy to Clipboard: 表をタブ区切りでコピー
  • Export Summary Table: summary_table.csv を保存。インターバル解析 が有効なら summary_intervals.csv も保存する
  • Visualize: 読み込んだファイルを Visualization タブへ送る
  • Bout Analysis...: バウト解析を開く
  • Transition Analysis...: 遷移解析を開く

バウト解析と遷移解析は、通常の Summary / Intervals 集計とは独立した別ウィンドウ です。開いても通常のサマリー出力は変更されません。


4. バウト解析

バウト解析は、同じ行動が短い間隔で繰り返されたとき、それらを 1 つのエピソード としてまとめる解析です。例えば、短時間に連続する攻撃行動を「1 回の攻撃バウト」 として扱いたい場合に使います。

4.1 解析を開く

  1. Analysis タブでアノテーション CSV を読み込む。
  2. Bout Analysis... を押す。
  3. 対象行動にチェックを入れる。
  4. Bout criterion (s)、つまり BCI を設定する。

同じ行動の連続イベントについて、間隔が BCI 以下なら同じバウトにまとめられます。

State イベントでは、次のイベントの onset から、現在のバウトの最大 offset を 引いた値が間隔です。Point イベントでは onset と offset が同じなので、実質的に onset-to-onset の間隔になります。

4.2 BCI の決め方

BCI は直接入力できます。Estimate BCI... を押すと、RABET が参考値を提案 します。この値はあくまで補助であり、研究上の判断を置き換えるものではありません。

推定では、まず 2 成分の対数正規混合モデルを試し、うまく推定できない場合に broken-stick 法へフォールバックします。イベント数が少ない場合や分布が明瞭に 二峰性でない場合は、安定した推定値が出ないことがあります。

群間比較をする場合は、同じ BCI をすべての群に適用するのが基本です。

4.3 Table タブ

Table タブには、選択した (animal_id, 行動) ごとに次の値が表示されます。

  • イベント数
  • バウト数
  • 1 バウトあたりの平均イベント数
  • バウト持続時間の平均・中央値・合計
  • バウト内の実活動時間
  • 平均 inter-bout interval
  • セッション時間が分かる場合の Bouts/min

表はクリップボードへコピーしたり、CSV として保存したりできます。

4.4 Raster タブと図の出力

Raster タブでは、個体ごとのバウトが時系列で表示されます。バーの高さと色は、 そのバウトに含まれるイベント数を表します。

出力できるもの:

  • バウトラスタ図: PNG / SVG / PDF
  • バウト一覧: CSV

図を出力する前に DPI を指定できます。出力完了ダイアログは 1 秒後に 自動で閉じます。


5. 遷移解析

遷移解析は、「ある行動の次にどの行動が起こりやすいか」を見る 1 次遷移解析です。 行が antecedent、列が consequent です。

5.1 解析を開く

  1. Analysis タブでアノテーション CSV を読み込む。
  2. Transition Analysis... を押す。
  3. 個体、または All animals (pooled) を選ぶ。
  4. Event レベルか Bout レベルを選ぶ。
  5. 必要に応じて時間窓や self-transition 除外を設定。

pooled 解析では、まず個体ごとに遷移を数え、その行列を足し合わせます。ある個体の 最後のイベントと次の個体の最初のイベントをつなげるような、人工的な遷移は作りません。

5.2 Event レベルと Bout レベル

Event (each event) は、記録された各イベントをそのまま 1 トークンとして 扱います。同じ行動が続けば Attack -> Attack のような self-transition も 現れます。

Bout (collapse by BCI) は、同じ行動のバーストを BCI でバウトにまとめてから、 バウト間の遷移を数えます。短い反復が多く、対角成分だけが大きくなりすぎる場合に 有用です。

5.3 時間窓と self-transition

Window (s, 0=off) を設定すると、連続するイベント間の間隔がその秒数以内 の場合だけ遷移として数えます。長い空白のあとに起きた行動を、直前行動の結果 として扱いたくない場合に使います。

Exclude self-transitions をオンにすると、対角成分を構造的ゼロとして扱います。 この場合、期待度数は行・列の周辺度数に合うよう iterative proportional fitting で求めます。

5.4 Matrix の指標

Show でセル内に表示する値を切り替えられます。

指標 意味
Adjusted residual (z) 偶然期待からのずれを表す z 値。正なら期待より多く、負なら少ない
Conditional P(j|i) antecedent i の後に consequent j が来る生の確率
Odds ratio (vs rest) 他の antecedent / consequent と比べた関連の強さ
Counts 観測された遷移回数

セルの色は常に adjusted residual z を表します。太字は |z| > 1.96 を示し、 大標本近似ではおおよそ p < .05 に相当します。antecedent の基数が 30 未満 のセルは不安定なので、解釈には注意してください。

5.5 Heatmap と CSV 出力

Heatmap タブでは adjusted residual を図として確認できます。PNG / SVG / PDF で出力でき、DPI も指定できます。

Export Tidy CSV (all animals)... は、animal_id, antecedent, consequent ごとの long-format CSV を保存します。観測回数、条件付き確率、期待度数、 adjusted residual、odds ratio、フラグ、レベル、BCI、時間窓が含まれます。

5.6 Predictability タブ

Predictability タブは、より焦点を絞った問いに答えます。

ある target 行動のうち、指定した時間窓内に antecedent 行動が先行していた割合はどれくらいか。

設定するもの:

  • target 行動
  • antecedent 行動セット
  • 時間窓
  • target を event として扱うか、bout として扱うか
  • chance correction を行うか

chance correction では、antecedent の時刻を円環シフトして、antecedent が単に 多いだけで生じる基準値を推定します。表には個体ごとの observed、chance、 above chance が表示されます。群間比較や統計検定は、エクスポート後に下流の 統計ソフトで行ってください。

棒グラフは PNG / SVG / PDF で出力できます。


6. 可視化

Visualization タブでは、複数のアノテーションファイルを横並びのラスタープロット として表示します。

6.1 読み込みと絞り込み

Visualization タブで直接 CSV を読み込むことも、Analysis タブの Visualize から移動することもできます。1 ファイルが 1 行になり、イベントは onset の位置に 行動ごとの色で描画されます。

右側のチェックリストで、表示するファイルと行動を切り替えられます。行動名の横の 色見本をクリックすると、配色を変更できます。

6.2 表示オプション

主なオプション:

  • 縦グリッド・横グリッド
  • グリッド色
  • x 軸の最大範囲
  • ファイル番号の表示
  • ファイル間の区切り線
  • 自動サイズ調整
  • プロット外側の背景透過

行動色の設定は configs/custom_color_map.json に保存されます。

6.3 図の出力

Export から PNG / SVG / PDF で保存できます。PNG では DPI を指定できます。


7. 信頼性評価

Reliability タブでは、評価者間信頼性と評価者内信頼性のどちらも扱えます。 RABET は「2 つの出力を比較する」だけなので、2 人の評価者でも、同じ評価者の 2 回目のスコアリングでも使い方は同じです。

7.1 Summary モード

Summary モードは、Analysis タブから出力した 2 つの summary_table.csv を 比較します。通常は評価者ごと、またはスコアリング回ごとに 1 ファイルです。

RABET は animal_id で行を対応付け、メトリクスごとに次を計算します。

  • ICC(2,1): two-way random、absolute agreement、single-measure の ICC
  • Pearson 相関
  • 平均絶対差

対応する値に個体間分散がない場合、ICC や Pearson 相関は未定義になります。 これはエラーではありません。定数同士が完全に一致していることと、相関型の統計量が 識別できることは別です。

docs/reliability/compute_agreement.R には、Summary モードの ICC、Pearson r、 平均絶対差を R で再現するための参照実装があります。

7.2 Detailed モード

Detailed モードは、同じ動画をスコアリングした 2 つのアノテーション CSV を 比較します。指定した bin width で時間を区切り、各ビンに行動が存在するかどうかを 比較します。

行動ごとに次を出力します。

  • Cohen's kappa
  • 名義尺度としての Krippendorff's alpha
  • 生の一致率

両方の評価者で全ビンが 0 の行動では、生の一致率が 100% になることがあります。 ただし、この場合 kappa や alpha は未定義です。RABET はこれを「完全な chance-corrected reliability」としては扱いません。

不一致レビュー表とラスタオーバーレイを見ると、片方だけ時間がずれている、特定の 行動を見落としている、カテゴリの分け方が違う、といった原因を見つけやすくなります。

7.3 Disagreement Review

Detailed モードで一致度を計算した後、Review disagreements... をクリックすると、 イベント単位の相違を個別に確認できます。Detailed モードで最初に読み込んだ アノテーション CSV が Reference、2 番目が Trainee として扱われます。 Load video... をクリックし、両方のファイルでスコアリングした動画を選択してください。 各レビュー項目が動画内の該当位置に関連付けられ、Reference と Trainee の アノテーションが別々のラスタ行に表示されます。

FirstPrevNextLast を使うと、レビュー項目を時間順に移動できます。 Behavior は表示する行動を、Type は不一致の種類を絞り込みます。これらの フィルターは表示リストにのみ作用し、一致度の計算、イベントの対応付け、CSV 出力には 影響しません。Behavior display settings...Show legendWhite background はラスタの表示だけを変更します。

レビューパラメーター

  • Window: ± はイベントを対応付ける際の時間的許容幅です。デフォルトは 2 秒です。 同じ行動のイベント対について、開始時刻と終了時刻の差が両方とも Window 以下の場合に Time matched と判定されます。小さい値ほど時間的に厳しい判定になり、大きい値ほど 評価者間の時間差を許容します。ただし、大きすぎる値では本来別々に確認すべきイベントが 対応付けられる可能性があります。
  • Pre-roll は、選択したレビュー項目より何秒前から動画再生を始めるかを指定します。 デフォルトは 1 秒です。これは動画確認のための設定であり、イベントの対応付け、kappa、 alpha、review CSV の内容には影響しません。

Disagreement Review の Window は、Detailed モードで指定する bin width とは別の パラメーターです。bin width は Cohen's kappa、Krippendorff's alpha、生の一致率を 計算する時間ビンの幅を決めます。Window を変更するとイベントの対応付けは再計算されますが、 これらのビン単位の統計量は再計算されません。

RABET は同じ行動ラベルのイベントだけを比較し、1 対 1 で対応付けます。時間的な重なりが 大きい組み合わせを優先し、次に時刻が近い組み合わせを優先します。各イベントは次の 4 種類のいずれかに分類されます。

  • Time matched: 開始時刻と終了時刻の差が両方とも Window 以内です。件数には表示されますが、 不一致の移動リストと review CSV には含まれません。
  • Timing offset: 同じ行動の対応候補は見つかりましたが、開始時刻または終了時刻の差が Window を超えています。
  • Reference only: Reference のイベントに対応する Trainee のイベントがありません。
  • Trainee only: Trainee のイベントに対応する Reference のイベントがありません。

Disagreement review CSV

Export review CSV... をクリックすると、disagreement_review.csv が出力されます。 CSV には Timing offsetReference onlyTrainee only の各不一致が 1 行ずつ 記録されます。Behavior と Type の現在のフィルター設定にかかわらず、すべての不一致が 出力されます。Time matched のイベント対は含まれません。

意味
Type 不一致の種類: timing_offsetreference_onlytrainee_only
Behavior イベント対に共通する行動ラベル、または対応しなかったイベントの行動ラベル。
Jump_time_s Pre-roll 適用前の動画移動先。イベント対では早い方の開始時刻、対応しないイベントではその開始時刻。
Review_start_s 確認対象区間の開始。イベント対では早い方の開始時刻、対応しないイベントではその開始時刻。
Review_end_s 確認対象区間の終了。イベント対では遅い方の終了時刻、対応しないイベントではその終了時刻。
Reference_onset_s Reference の元の開始時刻。trainee_only では空欄。
Reference_offset_s Reference の元の終了時刻。trainee_only では空欄。
Trainee_onset_s Trainee の元の開始時刻。reference_only では空欄。
Trainee_offset_s Trainee の元の終了時刻。reference_only では空欄。
Onset_delta_s 対応付けられたイベント間の開始時刻の絶対差。対応しないイベントでは空欄。
Offset_delta_s 対応付けられたイベント間の終了時刻の絶対差。対応しないイベントでは空欄。
Overlap_s イベント対が時間的に重なる長さ(秒)。重なりがない場合または対応しないイベントでは 0。
IoU 2 つのイベント区間の intersection over union(0~1)。値が大きいほど時間的な重なりが大きい。対応しないイベントでは空欄。
Matching_window_s イベントの対応付けと分類に使用した Window の値。

まず Type と各評価者の時刻列を見て、見落とし、余分な記録、時間ずれのどれに当たるかを 確認します。次に delta、overlap、IoU の各列から、時間差の大きさを確認できます。 review CSV は品質管理の補助資料です。Detailed モードの Export results... から出力する 行動ごとの kappa、alpha、生の一致率の表を置き換えるものではありません。

7.4 解釈の注意

色分けは目安です。Cicchetti の ICC バンドや Landis-Koch の kappa バンドは よく使われますが、許容できる値は行動の密度、持続時間、研究目的によって変わります。

論文やレポートでは、bin width、解析した行動、サンプル数、Summary / Detailed の どちらで計算したかを明記してください。


8. プロジェクトモード

RABET のプロジェクトは、関連ファイルをまとめるための作業単位です。

  • 動画
  • アノテーション CSV
  • アクションマップ
  • 解析出力

New Project でプロジェクトを作成し、Add VideoAdd AnnotationAdd Action MapAdd Analysis からファイルを追加します。追加時には、 プロジェクトフォルダへコピーするか、元ファイルへの参照だけを登録するかを選べます。

プロジェクト内の動画を選んで Annotate を押すと、Annotation タブに切り替わり、 録画終了後にアノテーションがプロジェクトへ保存されます。その後、自動で Project タブに戻ります。

プロジェクトのマニフェストは変更のたびに自動保存されます。

プロジェクトのアクションマップ

プロジェクトは専用のアクションマップを持ちます。これにより、あとでグローバルの マップを変更しても、そのプロジェクト内のすべての動画で 1 つのキーが常に同じ 行動を意味することが保証されます。

プロジェクトを作成すると、その時点で使用しているアクションマップの複製が プロジェクトの action_maps フォルダに保存され、project.json に記録されます。 プロジェクトを開くとそのマップが読み込まれ、閉じるとグローバルのマップに戻ります。 プロジェクトを開いている間のマップ編集はプロジェクト側に保存されるため、 グローバルのマップが変更されることはありません。

RABET 1.4.2 より前に作成したプロジェクトは専用マップを持たず、従来どおり グローバルのマップを使用します。専用マップを持たせるには、そのプロジェクトを 開いた状態で File > Use Current Action Map for This Project を実行します。 この処理は自動では行われません。いま読み込まれているマップが、それらの動画を 実際に採点したときのマップであるとは限らないためで、判断はユーザーに委ねられます。 一度設定すれば、新規作成したプロジェクトと同じ扱いになります。

プロジェクトを開いてマップが変わった場合

プロジェクトを開いたことでいずれかのキーの意味が変わる場合、記録を開始する前に 変更内容が表示されます。異なる体系のプロジェクト間を切り替えたときのほか、 専用マップを持つプロジェクトから持たないプロジェクトへ移ったときにも表示されます。 マップに変更がない場合は何も表示されません。

どの体系が有効か分からなくなった場合は、Action Map パネルの見出しを確認して ください。


9. 設定とファイル

9.1 保存される UI 設定

RABET は次のような設定を次回起動まで保持します。

  • ウィンドウ位置とサイズ
  • 最後に開いたタブ
  • 録画時間
  • コマ送り幅と再生速度
  • インターバル解析設定
  • Preserve on rewind の状態
  • 最近開いたファイル
  • ファイル選択ダイアログの直近フォルダ

9.2 設定ファイル

ユーザーデータフォルダには主に次のファイルが入ります。

  • configs/default_action_map.json
  • configs/user_action_map.json — グローバルのアクションマップ。専用マップを 持つプロジェクトでは、代わりにプロジェクト内に保存されます (プロジェクトのアクションマップ を参照)
  • configs/default_metrics.json
  • configs/custom_color_map.json
  • logs/rabet_<date>.log

設定ファイルとプロジェクトファイルは UTF-8(BOM の有無を問わず)として 読み込まれるため、手動で編集した場合も日本語の行動名がそのまま保持されます。

9.3 CSV 出力

RABET が出力する主な CSV:

  • Annotation タブからのアノテーション CSV
  • Analysis タブからの summary_table.csv
  • インターバル解析が有効な場合の summary_intervals.csv
  • バウト解析 CSV
  • 遷移解析の tidy CSV
  • 信頼性評価の結果 CSV

アノテーション CSV、summary CSV、interval summary CSV の仕様は CSV_FORMAT.md を参照してください。


10. トラブルシューティング

動画が開けない

RABET は一般的な動画拡張子、既知の動画ファイルシグネチャ、PyAV で開ける ファイルを受け付けます。それでも開けない場合は、FFmpeg で変換または remux してみてください。

ffmpeg -i input.unknown -c copy output.mp4

macOS で「破損している」と表示される

未署名 DMG では Gatekeeper の quarantine が原因で表示されることがあります。 次を一度だけ実行してください。

xattr -dr com.apple.quarantine /Applications/RABET.app

信頼性評価の値が空欄になる

統計量が未定義の場合、空欄になることがあります。例えば、対応する値がすべて同じ 場合は ICC や Pearson 相関が未定義です。また、両評価者が全ビンで 0 の行動では、 kappa や alpha は未定義です。

ソースから実行していて import error が出る場合は、pyproject.toml の依存関係を インストールするか、同梱の conda 環境を使ってください。

ログを確認する

Log > View Logs でログフォルダを開けます。古いログは Log > Clean Up Logs から削除できます。

バグ報告時には、Help > About に表示される RABET のバージョンと、該当するログを 添付してください。


11. 引用とサポート

Issues: https://github.com/mi2e-K/RABET/issues

研究で RABET を使った場合は、次のように引用してください。

Mitsui, K. (2026). RABET - Real-time Animal Behavior Event Tagger (Version 1.4.2) [Computer software]. https://github.com/mi2e-K/RABET doi:10.5281/zenodo.15313025

この DOI は Zenodo の concept DOI です。再現性のため、実際に使った RABET の バージョンも必ず記録してください。